王唯任プロ
ゲスト:王唯任 インタビュアー:竹清 カメラ&書記:藤森
竹「突撃取材は囲碁愛好家に棋士やイベントが発生するまでの裏舞台を知っていただくことで親近感を持っていただこうという事から始まった企画です」
王「そうなんだ。よろしくね!」
まず王さんが囲碁を始めたきっかけを教えてください
王「小学校の先生から(やってみないか?)と言われたのが始まりだったんだよね」
竹「先生は強かったの?」
王「いやいや、それが碁を知らない先生だった(笑)」
竹「えっ!なぜそういう話になったの?」
王「僕の性格にあっていると思ったらしいんだ。それに教育に良いものだからね」
竹「昔から台湾では碁に理解があったんだね、教室を紹介されたの?」
王「そうそう、教室へ通う事になった」
竹「プロを目指して日本に来る事になったキッカケは?」
王「現在の師匠・筒井先生が偶然台湾に来ていたときに、対局をしてもらえることになってね」
竹「才能を見込んで日本に誘われた?」
王「そんなところかな(笑)」
竹「日本にきてからの生活は筒井先生のところでしていたの?」
王「少しの間内弟子としてお世話になって、千葉の幕張にプロ養成所の寮ができてからはすぐそこへ移ったよ。ていうか竹清くんもしばらく一緒に生活していたじゃん(笑)」
竹「はは、同じ部屋だったね、王さんの机の上は忘れられないよ」
王「なんで?」
竹「牛乳パックの中身がヨーグルトになっているのだもの(笑)」
王「はは、そんなこともあったよね、あの頃は物を大切にしすぎて、捨てる習慣がなかったから(笑)」
修行時代の心に残ったエピソードがあれば何か教えてください
王「そうだね、やっぱりプロ試験になかなか受かる事ができなくて大変だったことかな…」
竹「辛いよね…どんな風に乗り越えたの?」
王「入段のことを意識せずに、なるべく平常心で臨むことで、うまくいくようになったような気がする」
竹「あのプレッシャーのなかで気楽に打つことができたのはすごい事だね」
王「そうだね、でもたくさんのプレッシャーを経験したからこそ、平常心でいることの大切さを知ったと思うんだ」
その辛い経験を乗り越えて棋士になったわけだけど、今だから思う囲碁の魅力はどんなところ?
王「囲碁を通じて色々な人たちと出会えたことは本当に財産だね」
竹「具体的にどんな人と知り合ったの?」
王「そうだね、年の差や国籍関係なく大勢の人と知り合う事ができたけど、なかでも大企業の経営者や小さな子供達とは囲碁をやっていなかったら今みたいに親しくなる事はなかったと思うよ。」
竹「確かに一般社会ではなかなかない事ですね!」
では王さんにとっての囲碁はどんなものなのか教えてください
王「囲碁がなかったら今の自分はなかったと思うよ。碁を通じてたくさんの事を学んだからね。」
竹「具体的にはどんな経験から学ぶ事ができたの?」
王「色々とあるけど、あえてあげるなら何かの問題にぶつかったとしてもそれを解決する力が身についた、という事かな。」
竹「どうしてそういう力が身につけられたの?」
王「負けても全部自分の責任だよね。だから碁をやる事で、例えばうまくいかない事があっても、次にどうしたらうまくいくのか考えるようになったんだ。何か壁にぶつかったとしてもそうやって1つ1つ解決できるようになった気がするよ。」
竹「挫折を乗り越え、それををバネにして頑張る力が身についたんだね。」
王「そうだね。他にもたくさんの事を学んだけどね。」
では囲碁をこれから普及させるための作戦があれば教えてください
王「まず、囲碁人口を増やす事が大切だと思うよ。囲碁をやる人が増えれば全体のレベルアップにつながし、その中から新しいヒーローが生まれるかもしれないからね。」
竹「王さんの思うヒーローとはどんな人ですか?」
王「日本にも山下敬吾棋聖や張栩名人、高尾紳路本因坊など、ヒーローはたくさんいるけど、まだまだ一般の人にはあまり知られてないよね。ヒーローと言うのはやっぱり、囲碁界だけでなく、あらゆる世界で認められる人だと思うんだ。韓国では囲碁棋士というのは憧れの職業の1つだし、イーチャンホ先生の活躍で実際に囲碁人口がものすごく増えたからね。今は残念ながら日本が世界戦で押されてしまっているけど、囲碁人口を増やすことで新しいヒーローを発掘したいよね。」
竹「確かにそうだね。世界戦で押されてしまっているのは、勉強方法ではなく底辺の差に原因があると考えますか?」
王「そうだね。一概にはいえないけど考え方の違いもあると思うよ。日本は囲碁を棋道と言って芸術としてとらえて、自分そのものを磨いているというような・・・。」
竹「礼儀を重んじているよね。韓国は対局中のマナーなどは日本と比べていくらかラフに見えるかな?」
王「そうだね。日本のマナーは世界で一番だと思うよ。」
竹「勝負の事だけを考えた方がいいと思う?」
王「イーチャンホ先生をヒーローと言ったのは人柄も素晴らしいからだよ。日本は日本の良さを大切にしてほしいな。」
竹「なるほど、確かにそうですね。僕としては笑いがとれるタイトルホルダーが出てきてほしいな。」
王「あはは、でもやっぱりどんなに碁が強いだけで、人に尊敬されないのは悲しいことだと思うな。」
王さんの囲碁普及への思いを聞かせてください。
王「いろいろとやりたいことはあるけど、僕が強く思うのは、囲碁にはたくさんの効能があるから、それをもっと世の中に伝えるべきだということ」
竹「具体的にはどんなですか?」
王「現在、日本は情報で溢れているよね」
竹「うんうん。インターネットや、携帯電話とかね」
王「情報が溢れている社会では、たくさんの情報の中から自分で考えて何が必要かを判断しなければいけないものだから、きっと今のような社会を生きぬく力を養えると思うんだ」
竹「なるほど、確かに現代は、自分の判断と言うのが大切な社会だよね」
王「それから囲碁は人間性にも良い影響があると思うよ。集中力が身についたり、そうそう、子供達にとっては、負ける事によって挫折する経験になるしね。最近では、運動会で順位をつけるのをやめる傾向があったりして、子供達が勝ったり負けたりする経験が少なくなっているよね。囲碁は、勝つこともあれば負けることもある、でも例え負けたとしても、頑張れば次は勝つことができるかもしれない。挫折する経験だけでなく、それを乗り越える訓練ができるからすごくいいものだと思うんだ。それに子供だけでなく、経営者に囲碁を好きな人が多いのもたくさんの事を学べるからだと思うよ」
竹「日本の歴代の武将の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康なども囲碁愛好家で有名だね」
王「そうだね、あとは自分の責任で判断をしていくことで忍耐力も身につくと思うよ」
竹「そうだね、是非、色々な人に覚えてもらいたい」
今、囲碁普及の為に活動している事は何かありますか?
王「去年、東大で吉原さんと一緒に親子教室をやったんだ」
竹「東大でというのはすごいね」
王「今は、正課の授業にもなっているよ」
竹「正課授業に取り入れてくれたというのはすごい事だと思うのだけど、どのように実現したのですか?」
王「加藤正夫先生が生前に、学校教育にアプローチし続けた成果が実ったのだと思うよ。それに日能研や東大が協力してくれたので」
竹「本当に惜しい方が亡くなられてしまいましたね」
王「でも加藤正夫先生の弟子の吉原さんが意思を受け継いで頑張っているよ!今は、僕と吉原さん、万波佳奈さんら若手棋士と、たくさんのボランティアの人達が一緒になって『IGO AMIGO』という囲碁の普及活動もやってるしね。去年は『IGO FESTIVAL』という大きなイベントもやって、成功する事もできたし、若い人達には囲碁が着実に広がっているのを感じているよ。でも、もっともっと囲碁を多くの人に知ってもらいたいから、まだまだ普及活動を頑張らなくちゃと思っているけどね」
趣味を教えてください
王「スポーツは大好きだよ。スキーや、ロッククライミングなどは大学時代にやっていたし、卓球は子供の頃からやっているしね。スポーツだけじゃなく、映画や読書も好きだし、パソコンもよくやってるよ。いわゆる何でも屋かな(笑)」
竹「卓球はよくやったよね」
王「懐かしいね(笑)」
好きな女性のタイプを教えてください
王「うーん、難しいけど、優しい人がいいかな」
竹「具体的にはどんな風に?」
王「勝負の世界で生きていると辛い事がたくさんあるよね。そんな時に黙っていても分かってくれるような人だと嬉しいな」
竹「女流棋士で言うと誰?」
王「うーん、またまた難しいけど、あえていうなら全員かな(笑)」
竹「・・・。じゃあ皆タイプだ!」
王「そういうことにしておいてください(笑)」
竹「いい勉強になります。(受け答えの)」
棋士になっていなかったら何になっていた?
王「医者かな。子供の時になりたいと思っていたんだ」
竹「それは惜しい事をしたね」
王「あはは、いやいや」
竹「囲碁を切り離した時の自分ってどんな自分?」
王「うーん、もう体の一部だからね、想像できないな」
竹「なるほど、では、好きな食べ物を教えてください」
王「昔はお肉が好きだったんだけど、最近はさっぱりした食べ物も好きだね」
竹「昔は一緒に院生の寮生活をしていた時にお肉を食べなくなった時期があったね」
王「うん・・・。プロ試験の本戦を前に父が亡くなってしまって、ショックが大きかったのと、供養の意味もあったんだ。それと、プロ試験に落ち続けていたから、好きなものを我慢する事で自分を精神的に鍛えたいという思いもあったんだよね。あの時は本当に辛かった・・・。」
竹「大変な時期だったんだね」
最後に囲碁界の裏話を教えてください
王「あはは、竹清君の裏話でいいのかな?」
竹「それは編集すると思うよ・・・。」
王「うーん、じゃあ棋士同士の結婚とかどうかな?」
竹「ぜひ」
王「最近棋士同士の結婚が多いよね?」
竹「どうしてだろうね?」
王「棋士は特殊な職業だからね。結局他の事が苦手な人が多いから、同じ職業同士でということで理解し合えるみたいだね。」
竹「私生活が苦手な同士がくっついたら、部屋とかひどい事になるのでは?(笑)」
王「同じ仕事で目的が同じだから、理解して許しあえるんだよ、碁に負けた時の辛さとかって知らない人だと分かりにくいものだからね」
竹「なるほど、話の流れから言うと王さんは碁に理解のある方とお付き合いしてるとか!?」
王「はは、まぁやっぱり碁を知っている人と一緒にいるのが、僕は安心できるかな」
竹「今日は良い話をたくさんありがとうございました!子供の時から知っている王さんだけど、改めて話しをするとたくさんの発見があるものですね」
王「竹清君も普及頑張ってね!」
竹「一緒に頑張りましょう!」